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AIで開発が100倍速くなったら、SIerの売上は100分の1になるのか

開発が100倍速くなった。技術部門なら拍手したいニュースだ。ところが、その会社が開発にかけた時間を売っていたら、営業部門は次の見積書を前に困るかもしれない。

昨日まで3人月として説明していた仕事が、今日は4時間で終わる。同じ金額で売れるのか。安くするなら、減った売上をどこで埋めるのか。

この問いを考えるきっかけが、富士通の発表だ。2026年2月17日のプレスリリースによると、法改正に伴うソフトウェア改修の実証で、約300件の変更案件のうち1案件について、従来3人月を要した改修が4時間となり、生産性100倍の効果を確認したという。

「約300件のうち1案件」という範囲は外せない。 全案件の平均でも、SIerの仕事全体が100倍になったという発表でもない。3人月は人の投入量を表す単位なので、単純に「3か月の納期が4時間になった」と読み替えるのも避けたい。

そのうえで、仮にこうした改善が広がったら、SIerの売上はどうなるのか。私の見立ては、売上が減って利益が増える会社も、開発を速くしたのに苦しくなる会社も出る、というものだ。分かれ目は、浮いた時間の扱いにある。

以下の金額や業務例は、仕組みを考えるための仮定であり、特定企業の実績や業績予想ではない。

同じ効率化でも、請求書の作り方で結果が変わる

まず、実際に投入した時間や人月に応じて請求する商売を考える。単価が変わらず、同じ仕事を半分の稼働で終え、請求対象も半分になるなら、その仕事の売上は半分になる。

ただし、会社全体の売上まで半分になるとは限らない。空いた人が別の案件を担当し、その仕事にも対価が付けばよい。一つの案件を速く終える能力と、次の案件を途切れずに取ってくる能力が、以前より強く結びつく。

ここで厳しいのは、次の仕事がまだない場合だ。工数が減っても、雇用している人の給与が翌月から半分になるわけではない。請求だけが先に減り、人件費とAIの利用料が残る。生産性の向上が、短期的には稼働率の低下として現れることがある。

では、合意した範囲の仕事を一定額で売る場合はどうか。価格を変えずに同じ品質で納められ、原価が下がれば、その差は提供側の利益になる。速く終える誘因は、もともとこちらにもある。

たとえば、売価1,000万円、原価800万円の仕事で、AI利用料や検証費も含めた原価が500万円になったとする。価格が据え置きなら、差額は200万円から500万円へ増える。顧客に200万円を還元して800万円で売っても、差額は300万円だ。顧客は安く買え、提供側も以前より多く残せる。

もっとも、これは原価が本当に下がるという仮定である。空いた社員の時間を原価計算上で別へ移すだけでは、会社全体の支出は減らない。別案件を進める、外部への発注を減らす、追加採用を抑えるなど、経済的な効果につながって初めて、この計算が実態に近づく。

ここで分けているのは料金の決まり方だ。「人月なら準委任」「固定価格なら請負」と契約の法的な性質を一対一で決めているわけではない。実際の取り分は、契約の範囲や変更条件にも左右される。

利益が増える時間には、賞味期限がある

固定価格で受けていれば安心、とも言い切れない。

ある会社だけが速く作れる間は、従来の価格と新しい原価の差を利益にしやすい。しかし、競合も同じ水準で作れるようになれば、次の見積もりでは価格競争が起きる。顧客自身がAIを使って内製できるなら、外注するかどうかも比較対象になる。

効率化した分を誰が受け取るかは、時期によって変わるのだ。

導入直後には、先に仕組みを整えた会社が利益を得るかもしれない。普及後には、その一部が値下げとして顧客へ渡る。AIやクラウドの利用が増えれば、基盤の提供会社にも支払いが流れる。SIerの工程が減った分が、そっくりSIerの利益になる保証はない。

それでも、顧客が納得して高い価格を払う余地はある。安く作る会社より早く稼働でき、その早さが顧客の売上や損失回避につながる場合だ。ただし、「従来これだけ人月が必要だった」という説明だけでは、その価格を支えにくくなる。

価格を守るには、顧客が何を早く得られるのかを説明する必要がある。作り手の節約できた時間と、買い手が買いたい時間には違いがある。

安くすれば、仕事はいくらでも増えるのか

ここでよく出てくる反論が、「開発が安くなれば、今まで作れなかったものを作るようになる」という話だ。これは十分あり得る。

たとえば、年間100万円の業務改善効果が見込める社内ツールがあるとする。開発費が1,000万円なら見送られても、100万円になれば検討に乗るかもしれない。価格が下がることで、これまで発注にならなかった小さな改善が市場に出てくる。

ただし、仕事の件数が増えることと、売上が増えることは別の計算になる。

同じ規模の仕事について平均単価が20%下がるなら、売上を維持するには件数を25%増やす必要がある。半額なら2倍だ。単価が100分の1なら、同じ売上には100倍の件数が要る。開発能力が100倍になったというだけで、顧客から100倍の注文が届くわけではない。

しかも、作ったシステムには使う側の負担がある。現場が業務を変え、データを整え、従業員が使い方を覚える。似たツールが増えれば、運用する対象も増える。開発費だけが安くなっても、こうした負担が大きければ採用されない。

需要拡大は、SIerにとって希望ではある。しかし、それを値下げの穴埋めとして先に織り込むのは危うい。新しく生まれる小口案件を、従来と同じ営業・見積もり・個別調整の手間で受けていては、件数が増えるほど忙しいのに利益が残らないこともある。

月額に変えれば解決する、でもない

もう一つの道は、個々の改修の工数を売る形から、継続的なサービスへ変えることだ。

たとえば、一定範囲の制度変更への対応や、合意した水準でのシステム維持を年額で引き受ける。約束したサービスを少ない負担で提供できれば、効率化の利益を残しやすい。顧客にも、改修のたびに発注する手間が減る利点がある。

だが、月額という請求方法自体には、利益を生む力はない。顧客ごとに別の仕組みを抱え、変更も問い合わせも際限なく引き受けたら、忙しい受託開発を分割払いにしただけになる。

継続サービスで効いてくるのは、同じ改善を複数の顧客に届けられる度合いだ。一度直した共通部分が次の顧客にも使えるなら、売上の増加に対して必要な仕事を抑えられる。その一方で、個別対応が多い顧客には、それに見合う範囲と料金を設ける必要がある。

AIに業務を任せられる範囲を商品にするという話でも、継続的に条件を維持する仕事を取り上げた。今回の論点は、その仕事が増えたとき、売上と原価がどう動くかである。必要な仕事が残ることだけでは、儲かる理由にはならない。

開発の先で待ち行列ができる

開発の一部が100倍になっても、会社全体が100倍の仕事を通せるとは限らない。

単純化した仮定として、案件に必要な労力の半分だけを100分の1にでき、残り半分は変わらないとする。全体の労力は50.5%になる。改善は大きいが、全体では約2倍だ。実際の納期には並行作業や待ち時間もあるため、この計算すらそのまま当てはまるとは限らない。

顧客が仕様を決める時間、他システムとの調整、本番へ出す判断が変わらなければ、完成したものがそこで待つ。富士通の実証も、そこから基盤整備や本番移行を含む案件全体の原価が100分の1になった、とまでは読み取れない。

だから、開発が速くなるほど、次の制約を解く仕事の価値は相対的に高まるはずだ。ただし、それも人を大量に張り付ければよいという話ではない。案件ごとに繰り返している確認を共通化できるか。小さな変更なら小さく判断して届けられるか。安く作れる量と、顧客が実際に受け取れる量を近づける必要がある。

AIで開発が100倍速くなったら、SIerの売上は100分の1になるのか。そう決まってはいない。価格、受注量、原価、そして料金の決め方が変わるからだ。

ただ、同じ時間を売り続ける前提のまま、生産性だけ上げれば成長できるという期待は持ちにくい。

浮いた時間で次の仕事を取るのか。値下げして新しい顧客を増やすのか。共通のサービスを育てるのか。その選択次第で、同じ技術が増益にも減収にもつながる。

100倍という数字の次に見たいのは、どれだけ速く作れたかに加えて、安くなった分を誰が受け取り、そのあと何が新しく売れたのかである。

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