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AnthropicのGit刷新が映す、SIerの次の稼ぎ方

AIでコードを書く速度が上がるほど、SIerの売上も伸びるのだろうか。

Anthropicが2026年10月13日に公開したソース管理の刷新事例は、この問いを考える材料になる。開発が速くなった結果、その変更を受け止める仕組みが追いつかなくなったという話だからだ。

私は、これからのSIerには、顧客が必要とする変更を、品質と費用を管理しながら継続して本番へ届ける能力が、より強く問われると考えている。実装が速くなる恩恵を利益に変えられるかは、契約と開発体制の組み合わせで変わる。

以下では、公開資料で確認できる事実を起点に、SIerの収益と競争力を考察する。将来の見通しや業務例は筆者の仮説であり、業界全体の成長率を予測したものではない。

Anthropicで起きた、開発の制約の移動

Anthropicによれば、1日に取り込むコード変更は、2026年5月の約2,500件から9月には3万件超へ増えた。そこで同社は、独自のソース管理システムScionとレビュー用のAntique、関連システムを7人のチームで開発し、5か月で移行した。Scionは、常時接続を前提に多くの処理をサーバーへ集め、必要なデータだけを取得する設計だ。Anthropicの原文

ただし、これは極端に大きな開発環境での自己報告である。同社もScionを汎用的なGitの代替とは位置づけず、社内で使えるトークン量にも特殊な条件があると説明している。変更件数は、顧客価値や利益の増加を直接測った数字でもない。

原文では、人がシステム全体の設計判断を担い、AIによる制約違反や過剰設計を止めたことも述べられている。少人数化した開発の中にも、何を作るべきかを判断する仕事は残っている。

この事例から私が注目するのは、ある工程が速くなると、別の工程の遅さが事業の上限になるという点だ。

たとえば、実装が半日で終わっても、仕様の確認に数日、結合テスト環境の確保に数日、リリース承認にさらに数日かかる案件を想像してほしい。実装だけを速めても、顧客が使い始める日は大きく変わらない。これは説明のための例だが、どこを改善すれば対価が生まれるかを考えやすくする。

人月契約と固定価格契約では、利益への効き方が違う

「AIで効率化するとSIerの売上が減る」という見方には、条件を付ける必要がある。

投入する人数と期間に対して課金し、同じ仕事を少ない工数で終えた分だけ請求も減るなら、効率化は一案件の売上を押し下げる。一方、合意済みの成果物を固定価格で納める契約なら、価格を維持したまま原価を下げることで、当面の利益を増やせる余地がある。

ただし、そこで見るべき原価には、AIの利用料、検証、手戻り、移行後の保守も含まれる。コードを書く時間が減っただけでは、案件全体で得をしたかは分からない。

契約・事業の形 効率化で得られるもの 収益を左右する条件
人数・期間に応じた課金 同じ体制で対応できる仕事が増える 空いた能力を別の受注へ回せるか
成果物を固定価格で納品 原価低下による利益率の改善 品質を保ち、追加費用を抑えられるか
継続的な開発・運用サービス 改善を繰り返し提供する売上 顧客が払う理由と、対応範囲を定義できるか

この表は、契約条件による違いを整理したものだ。現実の契約には組み合わせもある。

私の見立てでは、AIを早く使いこなした会社が固定価格案件で得る利益と、競合も効率化した後に起きる価格競争は、時間を分けて考えた方がよい。最初に原価を下げた会社が有利でも、その改善だけで高い利益率を保ち続けられるとは限らない。

逆に、開発費が下がれば、これまで採算に合わなかった小さな改修が発注される可能性もある。一件の単価、案件数、一件あたりの利益は、それぞれ別に動く。 ここを混ぜると、SIerの成長も衰退も簡単に語れてしまう。

新しい商品は、変更を本番へ届ける仕組み

SIerにとって有力なのは、開発の途中にある待ち時間や手戻りを減らす仕事だと考える。

Googleの2025年DORA調査では、AI利用とソフトウェアの提供量には正の関係が見られる一方、安定性との負の関係も報告された。自動テストや速いフィードバックなど、周囲の仕組みが重要だと説明している。これは調査上の関連であり、個々の案件でAIが不具合を増やすと証明したものではない。DORAの公式解説

ここから、たとえば次のような提案を組み立てられる。

  • 変更前に確かめる:顧客の業務上の制約を、繰り返し実行できるテストにする。
  • 小さく本番へ出す:変更の影響範囲を絞り、段階的に切り替えられるようにする。
  • 異常時に戻せるようにする:監視、切り戻し、担当者への引き継ぎを整える。

これらを案件ごとに一から作るなら、従来の受託開発と同じように工数が膨らむ。共通部分を再利用し、顧客固有の条件を設定や検証として追加できれば、次の案件にかかる費用を下げられる。

料金も、最初の基盤整備に対する費用と、それを維持・改善する継続費用を組み合わせられる。ただし、変更件数だけを成果指標にすると、細かく分割して件数を増やす誘因になる。顧客が求めた変更が使えるまでの時間と、障害・再作業の負担を一緒に見る必要がある。

業務知識は、次の変更にも使えて初めて資産になる

「顧客の業務を知っている」は、SIerの強みとして語りやすい。けれど、その知識を持つ担当者が毎回説明し、毎回確認しなければならないなら、売上を増やすほど担当者の負担も増える。

AIを使う開発では、この知識を次の作業へ渡せる形にする価値が高まるだろう。

NTTデータは2026年8月の公開記事で、AIを使う開発で同じ修正が繰り返された経験を挙げ、指摘内容、修正理由、確認結果を蓄積して後続作業へ引き継ぐ取り組みを紹介している。日本のSIerからも、開発の速さを支える知識の管理という論点が示されている。ただし、この事例から同社全体の利益改善までは判断できない。NTTデータの実践事例

私が資産になり得ると考えるのは、説明文に加えて、その説明を確かめる手段である。

受注システムなら、返品したときの在庫と請求の関係、締め処理をまたぐ訂正、外部連携が途中で止まった場合の再実行などを、何度でも試せるようにする。仕様変更のたびに同じ前提を一から確認する必要が減れば、顧客にもSIerにも経済的な価値がある。

再利用するのは、顧客の機密データや固有のコードを無断で持ち回ることではない。契約で許された範囲で、検証の方法や共通部品を蓄積する。顧客には、その仕組みを理解し、引き継げる状態も提供する必要がある。

Gitを作り直すことが、SIerの提案になるとは限らない

Scionの事例を読んで、すべての顧客に独自の開発基盤を売ろうとするのは飛躍だ。

Gitには、最初に取得するデータを減らすpartial cloneがある。大規模なソース管理では、MetaのSaplingと、そのサーバーであるMononokeの公開実装も存在する。一方、Mononokeの公開版には一部機能や設定ドキュメントの不足が明記されている。公開コードがあることと、そのまま自社で運用できることには距離がある。Gitの公式仕様、Mononokeの公開実装と制約

現実的には、まず既存のGitやCIを使いながら、待ち時間の発生箇所を測るのがよい。コードの取得、テスト、レビュー、承認のうち、どこが遅いのか。必要な改善がテストの並列化なら、ソース管理の全面移行には見合う効果がないかもしれない。

既存製品の活用は導入と保守の負担を抑えやすい。独自基盤は特殊な要件へ深く最適化できるが、移行、運用、障害対応を自社で引き受ける範囲が広がる。SIerには、この費用まで含めて選択を説明する力が求められる。

また、開発基盤の標準機能が充実すれば、単純な設定代行の価格も競争にさらされるだろう。既製品を組み合わせたうえで、顧客の業務をどれだけ改善できるかが問われる。

大手の顧客基盤と、小さなチームの機動力が競う

私の中心的な予測は、SIer全体が一様に縮むことよりも、同じ顧客の予算の中で、仕事の配分先と利益の残り方が変わるというものだ。

大手SIerには、複雑な既存システムや顧客の組織を理解し、長期の運用を担う機会がある。ただし、その経験を再利用できる仕組みに変えられなければ、規模は調整の多さにもなる。

小さな専門チームには、対象を絞り、実装から検証まで短い周期で進める余地がある。ただし、少人数で作れることだけでは、大規模な移行、継続運用、事故時の対応を引き受けられるとは限らない。

顧客企業が開発を内製する場合にも、外部の役割は残り得る。開発基盤の整備、移行時の支援、難しい障害の解決など、必要な部分を買う形だ。そのときSIerは、顧客が自走できるほど取引が細る可能性と、自走を支え続ける需要の両方に向き合うことになる。

この見立てが進むかどうかは、AIの導入社数だけでは測れない。私は、次の変化を見ていきたい。

  • 工数削減が、値下げ、利益率、新しい受注のどこへ配分されているか。
  • 顧客が変更を依頼してから使い始めるまでの時間が短くなったか。
  • 納品後の再作業や障害対応まで含めた原価が下がったか。
  • 過去の案件で得た知識が、次の案件の費用を下げているか。

AIの検証費用が高止まりし、顧客の調達方法も変わらなければ、この移行は遅くなるだろう。低価格化によって新しい需要が大きく増えれば、人月を中心とする会社でも売上を伸ばす余地はある。

それでも、SIerがいま試す価値のあることは具体的だ。一つの案件で、実装から本番利用までの待ち時間と原価を測る。その中の一つの制約を取り除き、改善が顧客価値と利益の両方につながったかを確かめる。

次の稼ぎ方は、増えた開発能力を、顧客が使える変更へ変換するところにある。 その過程を繰り返すほど品質が安定し、費用が下がる会社に、私は競争力が蓄積すると考える。

企業がAIにどこまで仕事を任せられるかという観点は、「SIerの次の商品は企業がAIに任せられる範囲である」で考察している。

公開資料の確認日:2026年10月14日。Scionの本番環境は検証していない。Mononokeは公開コード・更新履歴・テスト・権限管理・Issueを確認したが、導入試験は行っていない。

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